補聴器を使いこなせるようになるまで その二

補聴器を使いこなせるようになるまで その二

 

 

補聴器のトレーニングは「脳」のトレーニング

 

「聞こえにくい脳」から「聞こえる脳」への変化

難聴の方が補聴器を使用し、聴力を向上させるために必要なプロセスは、脳の神経可塑性に関連しています。神経可塑性は、脳が新しい情報や経験に対応し、神経回路を再構築する能力を指します。このプロセスは、新しい状況や刺激に適応するために重要です。

補聴器を使用すると、初めは「聞こえにくい脳」の状態から、新しい音に対応しようとする「聞こえる脳」への変化が始まります。この適応期間では、以下のポイントが重要です:

  1. 時間と継続性: 脳の神経可塑性は時間をかけて発生します。補聴器を毎日継続的に使用し、脳に新しい音の刺激を与えることが大切です。

  2. 挑戦的な環境でのトレーニング: 初めは静かな環境から始めるのは良いアプローチですが、徐々に音の多い場所にも挑戦しましょう。公共の場や賑やかなイベントなどでの経験は、脳を刺激し、適応を促進します。

  3. 専門家のサポート: 補聴器の調整やメンテナンスを専門家に頼むことは、成功に向けた重要なステップです。調整やメンテナンスは補聴器の性能を最大限に引き出すのに重要です。

 

補聴器のトレーニングを通じて、脳は新しい音に適応し、聴力を向上させます。忍耐強さとポジティブな姿勢を持ちながら、脳の神経可塑性を活用して、補聴器を効果的に使いこなすことができるでしょう。

 
 
 

トレーニングのポイント



補聴器のトレーニングをする時は、脳を早く順応させるために、脳にいろいろな音を聞かせて、聞こえる状態に慣らすことが重要です。

補聴器を使い始める頃の「聞こえにくい脳」の状態だと、「補聴器の音がうるさい」、「音声は聞こえるのに、言葉として認識できない」といった問題を感じやすくなります。また、補聴器のつけ方やお手入れ等、いろいろ慣れないことがあるのも当然ですね。聞こえ方も、使い方も、使っていくうちにだんだん慣れていきますので、「じっくり、焦らず、音を楽しみながら使う」という前向きな心構えが大切です。ぜひ下記の3点を心に留めて補聴器を使ってください。

 

1.慣れとともに少しずつ補聴器の音量を上げていく


音が聞こえにくい状態に慣れてしまった脳に、始めから大きな音を聞かせると、うるさくて我慢できなくなってしまうことがあります。そのため、補聴器を使い始めるときは、まずは「本当に必要な音量よりも少し小さめの音量」に設定することがあります。補聴器の効果を実感できる音量で、うるさく感じながらも我慢できる程度の音量です。

まずはそこから、少しずつ脳を音に慣らしながら、徐々に音量を上げていきます。

2.毎日できるだけ長い時間使う、いろいろな音を聞く


●できれば朝起きてから夜寝るまで1日中、また毎日補聴器をつけましょう。身の回りの新たな音・久しぶりに聞く音が脳へ入っているため、はじめは周りの音がにぎやかに感じます。

・食器の音、水の音、空調の音
・食事のそしゃく音
・お子様の大きな声、高い声など

疲れを感じたら少し補聴器を外してお休みしても構いませんが、あまり時間をあけずにまた装用してください。補聴器をつけても普段と同じような生活を送り、いろいろな場所で様々な音を聞いてみましょう。

●自分の声を聞く練習をしましょう

補聴器をつけはじめると、自分の声がいつもと違って聞こえたり、大きく聞こえることがあります。人は無意識に自分の声を聞き取って話し方を調節していますが、補聴器をつけると自分の声の聞こえ方に変化を感じます。新聞や本などを声に出して読んで練習をすると、脳が自分の声を再学習し、自分の声に違和感が無くなっていきます。

 

大切なのは、「早く補聴器に慣れるために、毎日補聴器をつける」ということです。今日は補聴器をつける、明日はつけない、というような使い方をしていると、脳がどちらの音に合わせていいかわからなくなるので、慣れるのに時間がかかってしまいます。

ただし、どうしても疲れてしまう場合は、無理をせずに補聴器を外し、補聴器販売店に相談してみてください。

3.定期的に販売店に通い、その時々の聞こえに合う調整をする

補聴器を使い始めた頃は、初心者向けに少し小さめの音量になっていることがほとんどです。補聴器を使っているうちに、だんだんと脳が音に慣れていき、聞こえ方も少しずつ変化していきます。それに合わせて補聴器から出る音を少しずつ大きくしていき、最終的に必要なボリュームまで上げていきます。

耳を慣らす→音を大きくする→耳を慣らす→もっと音を大きくする…ということを続けるのです。

「補聴器を使ってみたけれども、効果を感じなかったので使うのをやめてしまった」という方がいらっしゃいますが、このステップを十分に踏んでいないことが原因かもしれません。

 

音を大きくするのは補聴器販売店で行いますので、補聴器を使い始めて数ヶ月は頻繁に補聴器販売店に行く必要があります。定期的に補聴器販売店に行き、聞こえ方がどうか、その聞こえ方に補聴器の音の大きさがマッチしているかを確認してもらいながら、適切に補聴器を調整してもらいましょう。また、困ったことや気になることがあれば、気軽にお店に相談してみてください。

 

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より良い聞こえにするためご本人の意欲と周りのサポートが大事

初めての補聴器は、使い方も聞こえ方もすぐには慣れにくいものですが、「自分には合わないから使えない」とすぐにあきらめてしまうのはもったいないことです。適切なトレーニングを行うことで、多くの方はいつの間にか補聴器に慣れてしまいます。気楽に、少しだけ我慢をしながら、前向きに取り組みましょう。

 

また、ご家族や周りの方に協力していただくことが何よりも大切です。ご家族に特に気を付けていただきたいのが、これまでのように大きな声で話しかけないようにすること、耳元の補聴器に向かってすぐそばから話しかけないようにすることです。そうするとかえって聞き取りづらくなることもあります。

普通の声の大きさで、正面から口元を見せながら話しかけてください。普段よりも少しだけゆったりとしたスピードで話すのもいいでしょう。

自分だけが頑張るのではなく、ご家族や周りの方と一緒に、積極的な姿勢でトレーニングを頑張っていきましょう。